東京高等裁判所 昭和57年(行ケ)241号 判決
第四 証拠関係
1 請求の原因1ないし3の事実は、当事者間に争いがない。
2 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
(一) 成立に争いのない甲第二号証、同第三号証の一ないし三によれば、本願考案及び引用例記載の考案は、いずれも永久磁石を用いた鞄などの止具に係るものであつて、磁性板上に中央部に間隙が存するように永久磁石を固着した本体と、この永久磁石の上面と離接自在に当接し、かつ、右間隙において本体の磁性板と直接接触するようにした磁性板たる掛具とからなり、この両磁性板が接触したとき、永久磁石の磁束が掛具の磁性板によつて当該接触部に集中された後、本体の磁性板を経て永久磁石に戻る磁気回路が形成され、右接触部において高い磁束密度が得られることにより、本体と掛具との吸着力を高めることができる止具である点で共通しており、吸着力を高めるための磁気回路の全般的構成において差異はなく、ただ中央部に間隙を設けた永久磁石として、本願考案が二個の板状永久磁石を間隙をおいて並設したのに対し、引用例記載の考案では中央孔を有する環板状永久磁石を用いた点で相違するものと認められる。
(二) ところで、前掲甲第三号証の一ないし三によれば、本願考案は、従来引用例記載の考案などにおいて鞄など袋物の蓋の止具として用いられていた中央孔を有する環板状永久磁石(円筒状永久磁石)に代えて、前述のとおり二個の板状永久磁石を用い、この二個の磁石を間隙をおいて、強磁性板上に並設し、この間隙を実質的に環板状永久磁石の中央孔に相当させるようにしたものであることが認められる。
原告は、本願考案は、環板状永久磁石を使用するもの以上にいつそう小型化された止具を得ることを目的とするものであり、右の構成を採用することにより環板状磁石を用いたものでは奏しえない小型、肉薄化という作用効果を達成したものであると主張する。
しかしながら、前掲甲第三号証の一ないし三によれば、本願考案においては、強磁性板上に並設固着される二個の板状永久磁石の寸法、具体的形状などについて実用新案登録請求の範囲に何らの限定もなされてなく、考案の詳細な説明にも、原告が製造困難とする従来の環板状永久磁石の内外径や厚みの寸法、それに代わる本願考案の二個の磁石の寸法や止具全体の大きさなどについては何らの記載もなく、ただ「永久磁石2又は9の形状は矩形状、半月状など単純な形状の為、小型化が容易で、従つて止具全体としても小型化が可能となる。」(第四頁第一七行ないし第二〇行)と記載されているだけで、結局従来の環板状永久磁石を用いた止具に比して、どの程度に小型、肉薄とすることができたかは明らかでない。
また、原告は、中心孔を有する環板状永久磁石と本願考案における板状永久磁石のそれぞれの成形方法を対比し、環板状永久磁石の小型、肉薄化が技術的にも経済的にも困難であるため、前者に代えて後者を用いることにより、より容易に小型、肉薄化が可能となつた旨主張する。
しかしながら、仮に成形手段の差異により、板状永久磁石であれば、小型のものの量産が可能であるとしても、本願考案は永久磁石の完成品を用いた止具の構造を構成要件とするものであり、止具に用いられる永久磁石の製造方法に関するものではない。一般に、物品の形状、構造又は組合せに係るものである考案において、物品の構造上の相違が製造上の効果(本願考案においては、板状永久磁石の製造の容易性、製造費節減など)のみに現われる場合には、製造方法に関する発明とは異なり、完成品である物品としては、その相違部分に何らの技術的意義も認めることができないから、永久磁石の成形に関する製造上の差異をもつて本願考案と引用例記載の考案の差異とすることはできない。しかも、磁石を使用した止具において重要な機能である磁石の吸着力について、本願考案に用いられる二個の板状永久磁石は引用例記載の環板状永久磁石に比し吸着力が劣るものであること、本願考案の出願前中心孔を有する肉薄微小な環板状永久磁石が製造されていたことは原告の認めるところであるから、本願考案は、その出願当時吸着力の優れた肉薄微小な環板状永久磁石を製造することができなかつたので、それに代わるものとして二個の板状永久磁石を用いたというものではなく、このような環板状永久磁石は既に製造されていたが製造上の難点があつたので、機能上は劣るが製作容易な二個の板状永久磁石を用いたというにすぎない。
したがつて、本願考案において、板状永久磁石を二個間隙をおいて並設した構成は、引用例記載の考案において、環板状永久磁石を用いた構成に比べ顕著な効果を奏するものではなく、この点に新規な考案の存在を認めることができないから、「要するに、本願考案は、環板状のものを単に二個の板状のものに構造を変えてみただけのものにすぎず」、両考案は実質的に同一であるとした審決の判断に誤りはなく、審決には原告主張の違法はない。
3 よつて、審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとする。
〔編註〕本願考案の要旨は左のとおりである。
上下面を互に異極に着磁した二個の永久磁石板が、強磁性板上に並列固着してあり、該永久磁石板の露出面が装飾板で覆われていると共に、前記強磁性板の上面には別の強磁性板が離接自在に当接してあり、該強磁性板と前記強磁性板とが、前記永久磁石板の並列間隙部において直接接触していることを特徴とした永久磁石を使用した止具。